讃美歌とは違うものなの?
ゴスペルとは
ゴスペルは、19世紀にアメリカの教会で誕生した音楽です。
1900年代からはジャズやロック、ヒップホップといった幅広い音楽の影響を受けて発展。
現在では世界的に親しまれる存在になりました。
ゴスペルの意味
ゴスペル (Gospel) は、英語の「God Spell(神の言葉)」からできた単語。
そのため、音楽としてのゴスペル (Gospel music) も日本語で「福音音楽」と訳されます。
実はゴスペルという音楽ジャンルは2種類に分かれていて、ひとつが黒人教会で発達した「ブラック・ゴスペル」。
もう一方は、アメリカ南部の白人ミュージシャンに歌われていた「ホワイト・ゴスペル」です。
現在、一般的にゴスペルとされているのはブラック・ゴスペルのこと。
ホワイト・ゴスペルの方は、「Contemporary Christian music(コンテンポラリー・クリスチャン・ミュージック=現代的キリスト教音楽)」と呼ばれています。
手を叩いたりステップを踏んだりしながら、全身全霊で歌うイメージがあると思いますが、あれはアフリカ音楽の影響が色濃く残された証。
加えて、経済的な理由から楽器が用意できなかったこともあり、結果的に声だけで表現するアカペラを進化させることに。
そしてこのアカペラが、後のソウル・ミュージックへと繋がっていったのです。
ゴスペルと<ruby>讃美歌<rt>さんびか</rt></ruby>はどう違う?
ゴスペルと讃美歌を混同する人が多いので、ここでざっくり説明を。
神をたたえるためにキリスト教会で演奏される音楽は、歌のあるなしに関わらず「教会音楽」と呼ばれます。
その中で歌詞があり大勢で歌われるものが「讃美歌」。
さらに讃美歌の中でも黒人教会で発展したのが、現在のゴスペル(ブラック・ゴスペル)です。
ゴスペルの歴史
1640年代から1865年まで奴隷制度は合法でした。
大勢のアフリカ人が、故郷から遠くアメリカまで強制的に連行されたうえに独自の文化を奪われ、苦しい生活を強いられたのです。
自由のない過酷な環境の中で、やがて彼らは福音(ゴスペル)に救いを求めるように。
魂の救済を祈り、神に感謝と賛美をささげるために密かに口ずさんだ歌が、ゴスペルの起源といわれています。
アフリカ音楽が持つリズムやハーモニー、即興性に、ヨーロッパ賛美歌の音楽的で詩的な感性が融合して、現在のゴスペルの下地となるスピリチュアル音楽(黒人霊歌)が誕生。
以降、ジャズやブルース、ロックなどさまざまなジャンルの音楽と結びついて、現在も進化し続けています。
今も黒人教会に行くと、そんな先人たちから歌い継がれたゴスペルが聴こえるよ。
アフリカ系アメリカ人たちの過酷な歴史については、ブルースやキング牧師について紹介したページでより詳しく知ることができます↓
-
黒人文化の象徴ブルースはあらゆる音楽に息づく彼らの誇り
ブルースは現代のポピュラー系すべての音楽にとってルーツともいうべき重要な存在です。黒人の苦難の歴史から生まれたブルースが持つ意味と、音楽的な魅力についてご紹介します。
続きを見る
-
キング牧師は新旧ミュージシャンからリスペクトされる英雄
公民権運動の英雄マーティン・ルーサー・キング・ジュニアことキング牧師。国の祝日になるくらいリスペクトされている彼の影響は、音楽界にも。人種やジャンルを問わず、昔から多くのミュージシャンによって彼に楽曲がささげられています。
続きを見る
日本人のゴスペル認知度
1990年に「7オクターブの妖精」というキャッチフレーズで華々しくデビューし、日本でもすぐに大スターとなったマライア・キャリーや、主演した映画の主題歌『I Will Always Love You』で世界中での人気を不動のものにしたホイットニー・ヒューストン。
90年代に活躍が目覚ましかったアーティストたちがこぞって、子どもの頃から親しんだ音楽としてゴスペルの名を挙げたことで、少しずつ日本でもゴスペルというジャンルが知られるように。
そんな中やはり、日本でのゴスペル認知度を一気にメジャーなものに押し上げたのが、1992年に公開された『天使にラブ・ソングを(原題:Sister Act)』。
全世界で大ヒットしました。
今でも、ゴスペルといえばこの映画のイメージが強い人も多いのではないでしょうか?
ウーピー・ゴールドバーグ主演だけあって、ミュージカルとしてもコメディとしても楽しめる傑作。
翌年には続編も公開され、当時若かったローリン・ヒルが生徒役としてたぐいまれな歌唱力を披露しています。
そこから本格的に黒人音楽のトレーニングを始めて今に至るんだから、きっかけって大切だよね。
ゴスペル初心者におすすめのシンガー&名曲
ジェームス・ブラウンからボブ・ディランまで、ゴスペルはジャンルを超えたさまざまなアーティストに愛されてきました。
その影響は、多くのミュージシャンたちの作品の中に垣間見ることができるはず。
ここからは、現在でもリスペクトを集めるゴスペル・シンガーたちと、多くのアーティストにカバーされる至極のゴスペル・ソングをご紹介します。
偉大なるゴスペル・シンガー5選
それでは、厳選した5人のシンガーのみなさんをご紹介しましょう。
Thomas A. Dorsey(トーマス・A・ドーシー / 1899-1993)
「ゴスペルの父」と呼ばれる第一人者で、そもそもゴスペルという名前も彼が付けたものなのだとか。
元々ブルースピアニストだった彼が、自らメインボーカルを取ることは少なかったようですが、生涯で1,000曲以上のゴスペルを作曲した功績は計り知れません。
代表曲『Take My Hand, Precious Lord』はキング牧師のお気に入りで、暗殺前にリクエストしていたという話も有名。
Mahalia Jackson(マヘリア・ジャクソン / 1911-1972)
ゴスペル界において、レコード売り上げ100万枚を達成した最初のアーティスト。
彼女をきっかけに、ゴスペルというジャンルが広く世に知られるようになったと言っても過言ではないでしょう。
そのパワフルでメロディアスな歌声は、当時から大統領や皇族を含む世界中の人々の心を掴んで離しません。
キング牧師と親しかったのも、あまりにも有名な話。
キング牧師の葬儀では、前述の『Take My Hand, Precious Lord』をマヘリアが歌いました↓↓↓
James Cleveland(ジェームス・クリーヴランド / 1931-1991)
日本でも2021年に公開された映画、『アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン』を観た人ならすぐにピンときたはず。
MCを務めていたのが、クリーヴランド牧師です。
アレサの父親の教会で音楽プロデューサーをしていた関係で、アレサにとっては歌の先生。
彼自身も優れたミュージシャンでグラミー賞3度受賞、ハリウッド・ウォーク・オブ・フェイムの星も獲得しています。
Kirk Franklin(カーク・フランクリン / 1970-)
今回ご紹介する中で、ひときわ若いカーク。
ヒップホップとゴスペルを融合させた独自性で多くのファンを獲得した彼は、1,300万枚以上のアルバム・セールスを誇ります。
多少の物議があるものの、史上最も売れたゴスペル・アーティストであることは間違いありません。
グラミー獲得も12回という常連。
アレサの血筋ではないようですが、こっちのフランクリンも魅力的です↓↓↓
亀渕友香(かめぶちゆか / 1944-2017)
最後は、日本人ゴスペル・シンガーを紹介しましょう。
日本のゴスペル界における立役者といえば、この方を置いて他にいません。
が、一般的にはボイストレーナーとして知られているかもしれませんね。
杏里や和田アキ子といった往年のスターから、久保田利伸や平井堅などの実力派J-R&Bシンガーまで、数多くの歌声を指導してきました。
先述のMISIAもそのうちのひとりです。
ゴスペル初心者にもおすすめの名曲5選
それでは改めて、ゴスペルの名曲をお聴きください。
Oh Happy Day
前述した映画『天使にラブ・ソングを2』のおかげで、日本でも知名度が高い曲。
18世紀の賛美歌をもとにエドウィン・ホーキンズが作曲し、1967年にリリースしました。
「なんて幸せな日。神が私の罪を清めてくれた。喜びとともに生きる方法を教えてくれた。」
的なことを歌っている、パワフルで奥深い名曲です。
フランス版Voiceのワン・シーン↓↓↓堂々とした歌い上げとレンジの広さに驚きます。。
What A Friend We Have
これもトーマス・A・ドーシーの作曲。
カントリー・シンガーのテネシー・アーニー・フォードが、1960年にリリースしてヒットしました。
以降、リトル・リチャードやエルヴィス・プレスリーをはじめ、多くのミュージシャンにカバーされてきたスタンダード・ナンバーです。
クラシック音楽のような荘厳なメロディとテネシーの深みのあるボーカルが見事にマッチしてますね↓↓↓
Michael, Row the Boat Ashore
「漕げよ!マイケル」の邦題でも知られる、こちらもスタンダード・ナンバー。
19世紀のトラディショナルフォークが原曲で、アフリカからジョージア諸島まで奴隷として送られたアフリカ系アメリカ人たちに歌われていました。
この曲を口ずさみながら、船を漕いでいたのだそうです。
日本でも音楽の時間に習う学校もあるようです↓↓↓
Hallelujah
知名度の高いこの曲ですが、実はけっこう最近の曲だという事実をご存知ない人は少なくないはず。
レナード・コーエンによって1984年に発表されました。
シンプルすぎるタイトルにも昔からの曲感がありますが、サビ部分のキャッチーさがまた、後世のいろんな曲のお手本になったかのような印象。
まさに傑作ですね。
映画でのアレサ役が記憶に新しい、ジェニファー・ハドソンのバージョンでお聴きください↓↓↓
Amazing Grace
ラストに紹介するのは、やっぱりこの曲。
ド定番中のド定番で、この美しい歌詞はイギリスで有名なジョン・ニュートン牧師によって作詞されたと言われています。
作詞者もハッキリしませんが、もっと不明なのは作曲者。
しかも、アイルランドかスコットランドの民謡としてできた曲なのか、はたまたアメリカ南部で作られたのかさえわかっていません。
誰のバージョンもステキなのですが、ケルティック・ウーマンの透き通るような歌声でどうぞ↓↓↓
その理由は、誰もが歌声に込められたエネルギーを感じているからに他ならないでしょう。